兎の眼


兎の眼 (角川文庫)

兎の眼 (角川文庫)


灰谷健次郎は、初めて手にとりました。
もともと先生だった方なんですね。


主人公は、新任の小谷芙美先生(1年生担任)。
新婚ほやほや、先生になりたてホヤホヤのお嬢さん先生が、
自分の無力さに打ちのめされながらも
学校ではひとことも話をしない教え子の鉄三と向き合い理解していく。
その過程がお話の主軸。


学校だから、その他にもいろんなエピソードが絡んでくる。
校区内の塵灰処理所で働く人たち、子供たちとの交流。
鉄三もそのひとりなのだけど、塵灰処理所の子供たちは、
暮らしの貧しさとか衛生面とか
そういったハンディが多少なりともあって、
しばしば教師たちの間では扱い方が論争になったりする。
給食当番をさせるか否か、とかね。
ハタから聞いてると、なんかくだらなさそうな論争だけど、
本人たちは真剣だし、子供を預かる立場として、
それはわからなくもない。


印象的だったのは、
身障者(病名がはっきりしないけど知的障害だと思う)の
女の子みなこちゃんをクラスに受け入れる話。
これは、なんだか私も泣けた。というか心洗われた。
みなこちゃんは授業中に座っていられないし、排泄も世話を
してあげる必要がある。
だから、授業がしばしば止まったりして、お母さん連中からは
クレームも来たりする。
でも、一番迷惑かけられてるはずのとなりの席の男の子は、
大人より先に悟ってしまう。


”みなこちゃんがすきになったら
 みなこちゃんにめいわくかけられてもかわいいだけ”


で、彼の発案でクラスのみんなで「みなこちゃん当番」を作って、
かわりばんこにみなこちゃんの世話をするようになる。
どうしたらうまくいくか、って前の当番の子にきいたり、
子供は子供なりに自分の責任を全うしようとしてがんばる。
みなこちゃんに愛情を持つようになる。


子供ってすごいなぁ。。
もちろん、小谷先生もがんばった。だから、子供たちにも見えたのだ。
小谷先生、最初はお嬢さん先生で困ったわね、って感じかと思ったら、
全編とおして、かなりがんばらはった。いい先生です。


あと、最後に印象的だったのは、
先生としてしっかりしていくにつれ、
ささやかな、信念みたいなものが育ってくるにつれ、
小谷先生の家庭がうまくいかなくなっていく。
いろんな人に触れて、つまずいて、ちょっと逃げ出したくなって、
でもやっぱり向きなおって、そうやって
だんだんいろんなことを自分で考えるようになってくると、
本質的な価値観のちがいが、顕わになってしまうのだ。
あれはたぶん離婚するんだろうなぁ。。
お嬢さんのままだったら、うまくいっていたのかもしれない。
どっちが幸せなのか、わたしにはよくわからない。



この本はなかなかお勧めです。